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東京地方裁判所 昭和32年(ホ)435号 決定 1957年4月20日

被審人 トウキョウ・シビリアン・オープン・メス

主文

被審人を処罰しない。

理由

第一、東京都地方労働委員会から当裁判所が通知を受けた要旨

一、東京都地方労働委員会は都労委昭和三十年不第十号不当労働行為申立事件において昭和三十年十二月二十三日被審人は鈴木正敏、吉田芳成、牛窪秀夫に対する昭和二十九年十二月六日付臼井勝利に対する同年同月十六日付の各解雇を取り消し同人等を原職又は原職と同等の職務に復帰せしめ、同人等が解雇後復職までの間に受くべかりし給与相当額を支払わなければならない。被審人はその従業員が全駐留軍労働組合に加入し若しくはその活動に参加することを妨害したこと並にユニオンクラブ従業員組合の結成を支持勧奨し、これに援助を与えたことは全駐労等に対する支配介入であつたことを認め、再びこのような行為をしないことを誓約する旨を記載した文書を右組合等に交付すると共に右文書の内容を木板(縦三尺以上横四尺以上)に太字をもつて墨書し、これを従業員の見易い場所に一週間掲示しなければならない旨の救済命令を発し、同命令書写は昭和三十一年一月二十日被審人に送達されたが、その後法定期間内に中央労働委員会に再審査の申立も訴の提起もなされていないので右命令は労働組合法第二十七条第九項により確定した。

二、しかるに被審人は現在に至るまで右救済命令に従わないので同法第三十二条により過料に処せらるべきである。よつて同法第二十七条第九項により通知する。

第二、当裁判所の判断

被審人がわが国の裁判権に服するものであるかどうかの点を考察する。

右鈴木、吉田、牛窪、臼井外一名と被審人との間の当庁昭和三十年(ワ)第六一六四号記録によれば、次の事実が認められる。

被審人は米合衆国の陸軍規則(Army Regulations No. 210-50)に準拠して設立された同規則にいうところの歳出外資金による機関であるが、同規則には明文をもつて、歳出外資金による機関は「連邦政府機関(Instrumentalities of the Federal Government)であり且つ連邦憲法及び法令に基いて連邦政府の官庁及び機関に与えられる総ての免除と特権を享有する」と規定されていること、被審人と同じく歳出外資金による機関たる米軍ピーエツクスにつき米合衆国連邦最高裁判所は「政府の腕」、「陸軍省の不可分の一部」であると判断し同国の地方裁判所も同じく歳出外資金による機関たる将校クラブにつき政府機関であると判断していることが認められる。右事実によれば米合衆国においては被審人はその国家機関として取扱われていると認むべきである。

ところで被審人が米国において国家機関として承認を得ているからといつて、わが国の裁判所がそのままこれを米国の国家機関として認めねばならない拘束は受けない。然し同国の法制によつて国家機関として認められているものはわが国の裁判所においても国家機関として取扱うのが国際礼譲上至当である。

右のような外国の国家機関に対するわが国裁判所の裁判権の有無はその外国自体に対する裁判権の有無に帰著する。ところで国家は一般に外国の裁判権に服さず、ただそれが自発的に進んで外国裁判所の裁判権に服する場合を例外とし、この例外は条約によつて定めるか、又は特に特定の訴訟事件について当該国家が特定の外国に対しその裁判権に服する旨を表示したような場合に認むべきである。然るに日本国の民事裁判権に関する日本国と米合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十八条を合衆国自体ないしその機関が日本国の裁判権に服することを承認した趣旨に解することはできないし、その他その趣旨の条約又は明示の表示を認むべきものはない。

以上の次第で本件については日本の裁判権がないものというべきであるので主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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